美容業界の問題や教育を改善したいという想いで設立した、大阪・心斎橋の美容学校「ロゼ&ビューティー美容専門学院(以下、ロゼ美)」。今回も学園長・鍜貫一さんと、学院長・西里千亜紀さんにインタビュー。前回は、美容学校と美容業界の関係を変えたい、四年制の大学と同じように自主性をもって就職活動をしていくように生徒のマインドを変えていきたいという気持ちから「就職前教育」を徹底しているというお話を伺いました。ロゼ美では、先生がサロンを斡旋するのではなく、生徒が自分で合うサロンを探す方法を教えているといいます。一般的な美容学校とは少し違うロゼ&ビューティー美容専門学院の就職活動は、実際どのような感じなのでしょうか。そしてサロンオーナーはどう関わっていけばよいのでしょうか。今回は美容学生の採用活動の現状とロゼ美の取り組みについて話を聞きました。厳しいお話も飛び出しましたが、長く続けられる美容師さんを育成するため、それだけの情熱をもって教育されていることがよく感じられるインタビューでした。
美容師は学校を卒業後も「自ら」学んでいかないといけない。
ーー前回のお話を伺ったところ、生徒さん主体の就職活動に重点を置いているのは、学校設立当初から一貫されているんですね。
鍜「そうですね。入学する時に“入学したら美容室を紹介してくれるんですか”と聞いてくる親御さんが多いんです。学生さんも“ここにいたら誰かが来て、自分を連れ去ってくれる”と思っているように」
西里「アルバイトも、通っているサロンの美容師さんに“美容学校時代にアルバイトしておいた方がいいと聞いたんですけど、どこか紹介してくれるんですか?”と言ってくる。私たちはすごく違和感なんですよ。アルバイトはしたければするべきだけど、自分で探すぐらいの逞しさがなければ」
鍜「自分で選んでいないから、“しんどい”とか“思ってたところと違う”といったダメなところを簡単に見つけられるんですよ。それは自己責任であって、紹介した学校や人に対して言うことではない。ただその部分で言うと、“就職”という感覚が幼いのかなと思います。専門学校といえば、就職もワンパッケージになってるイメージがあるのだと思いますが、受け身の生徒さんが多いですね」
ーー専門学校は、就職率99.9%か100%という謳い文句が多いですもんね。
鍜「美容学校では、多分生徒1人に対して求人が50件ぐらいあるはずなんですよ。だからどこでも行こうと思ったら就職できる。ただ、行きたいサロンに行けるかどうかはわからない。その状態でなぜ“紹介してくれるんですか”と言うのかな」
西里「うちは全て就職前教育です。“学び方を学ぶ”というのが学園長の口癖なんですけど、その言葉に全て集約されています。そこさえわかっていれば、就職したサロンさんで可愛がってもらえると思うんですよ。美容師は学んでいかないといけないので。だからロゼ美では、“サロンでの学び方”を教えます。具体的には人の話をきちんと聞くことからです。就職先で“学校ではそう教えてもらってない”と言う子は、学び方を知らないと思います。ロゼ美で言う即戦力は、“学び方を知っている子”です。技術は学び方さえ知っていたらすぐに追いつきます」
ーー現場で伸びる人材を作りたいと。
鍜「ロゼ&ビューティーが作りたいですね。卒業して美容師になっても、3年後にはほとんどいなくなる。美容師という職業は、本当は給料が高いしやりがいがある、楽しい仕事だと思うんですよ。ただ仕事を回してもらえないとか、仕事を覚えられないとか、接客していてクレームを出すとか、返事や挨拶ができない子たちは業界から去っていかざるを得ない。ロゼ美では、生徒さんが意識の高いエキスパートの子たちに少しでも近づいていけるようになる教育を行っています。今の時代なんでしょうね、“はい手止めて、道具置いて”と言うと、物を平気で放り投げるんです。でも注意しない先生は注意しない。面倒くさいから。けど注意しないと、隣の子がいつの間にか物を投げるのを真似するようになるので。そこの部分では“面白くなくても授業にちゃんと集中する、ダラダラしない”というのは意識して伝えているつもりです」
ーー小さなことを見逃さず、学びたい人が学べる環境を作るというところですね。
鍜「そうです。それで学びたくない子も学びたいと思ってくれたらいい。環境を整えないと人は育たないと思うので」
サロンオーナーさんは、取引先ではなく「仲間」。
ーー前回「オーナーさんとの関わり方を変えていきたい」というお話がありましたが、美容学校とオーナーさんとの距離を近くする部分で取り組んでいることはありますか?
鍜「距離を近くするのは、知り合いになってワイワイすることではないんです。どちらかというとそこは離しています。前回求人票の話がありましたが、うちは求人票を送っていただいたらとりあえず並べます。他校さんと違うのは、サロンの採用担当の方から“挨拶にしに行きたい”とよく電話があるんですけど、ほぼお断りしてるんですね。というのも、お話しして距離を縮めることに私たちはそんなに重きを置いていないんです。挨拶してサロンさんの名刺をいただいて、採用担当の方の名前を覚えて、でもそれを生徒に渡すことはないんですよ。だったら聞かない。求人票だけ送ってくれたら大丈夫です。うちはオーナーさんと懇意にならない距離をとっています。それよりも“仲間”なんですね。学校に挨拶する時間があったら、オーナーさんも他の取り組みをしていただいた方がいいと思うし、私たちもその時間を使って他の生徒にもっと働きかけができます。採用担当の先生が生徒の就活に関わるのは違うと思っています」
ーーオーナーさんがロゼ美の生徒さんに関わるとしたら、どうすればいいですか。
西里「今後、校内外でガイダンスや説明会を行い、そこで語ってくれるオーナーさんを募っていきます。そこに一切の料金はかかりません。でもそこは求人の場所だけではなく、“学内以外の美容業界の生の話を聞いてもらう場”です。他校さんでは、サロンがそれをしようと思ったら学校にお金を払うところもあると聞きます。うちはそこを無料で全てフラットにしています」
ーー学生さんがサロン見学に行きたいと言った場合は、自主性に任せているんですか。
西里「自由なので、そうなってもいいですよね。学校に報告はしてもらいますが、そこで先生が“こっちの方がいいんじゃない”とか、“あなたの性格はこうだから”と決めつけるようなことは言いません。アドバイスを求められたらアドバイスはします。ただ、先生主体で挨拶に来たサロンを学生に紹介するとか、そういうことはないです。サロンさんが学校に来て、私たちじゃなく生徒に伝えていただく取り組みをこれから広げていきます。四年制の大学生は就職しようと思ったら自分たちで企業訪問しますよね。サロンさんが来てくれるのは美容学校ぐらいだと思うんですよ。そんな親切な就活ってありますか。でも入社したら逆の立場になりますよね。これもミスマッチの一つの要因だと思うんです」
ーーなるほど。
西里「来られるなら求人の話だけではなく、美容業界の話をしていただくのが良いと思います。在学中にリアルな現場の様子を生徒に伝えることで、採用後のイメージやギャップに差がなくなると考えています。私たちがオーナーさんと会うのは、卒業生が就職したサロンに挨拶に伺う時。卒業生がサロンから言われて学校に来ることはもちろんありますけど、つながりのないサロンさんと直接求人の話は、ロゼ美では今はしてないです」
ーー学校とサロンさんが提携してインターンシップ制度を導入している学校さんも多いと思いますが、ロゼ美さんは。
西里「今はしてないですね。授業の一環としてロゼ美が募集して、名乗りを上げてくれたサロンさんに順番で参加してもらうことは、今後の取り組みの一つになっていくと思います。そこを整えることは、私たちの課題でもありますね」
求人票には具体的に、一緒に働きたい人材を記載してほしい。
ーー実際に就職活動中の生徒さんを見て感じることや、受ける相談などはありますか。
西里「サロンさんが多くて、どこを選べばいいのか分からないという話はよく聞きますね」
ーーそういう場合は、どのようなアドバイスをされますか。
西里「まず、気になったサロンを見に行ってみてはどうかと言います」
ーー実際に入ってみないと分からない部分もあると思いますが、例えば大手サロンと個人店、どちらに行くか悩まれる生徒さんもいらっしゃいますか?
西里「その場合、より具体的に“自分がどっちに向いてるのか分からない”と悩んでいるので、大手さんで行きたいところ何社か、個人店で何社かをピックアップして、両方のサロン見学や説明会に行く。自分はどっちに向いてるのかを自分で判断するように言います。“あなたはこういう性格だからこうですよ”と決めつけるようなことは絶対に言いません。なので、サロンさんは求人票に“一緒に働きたいと思っている人物像”や“求めている人材”を具体的に書いてもらった方がいいと思います」
ーー具体的に示した方が、生徒さんも自分に合致しているか判断しやすい。
西里「熱い想いや、アットホームといった抽象的なことも良いのですが、具体的なことを伝えてください。たとえば“地元密着で働きたい方”とか“教育をしっかりして欲しいと思っている人”とか。教育制度の中身や、厳しい面もしっかりと伝える」
ーー雰囲気が楽しそうというだけのものもありますもんね。大学生は就職活動で自己分析をしますが、ロゼ美さんでも自己分析をするように指導されますか?
西里「“しなさいよ”と言っても難しいだろうなと思います。だから話を聞いて、こちらから自分のことを自分で気付く質問をするようにしています」
ーーたとえば?
西里「“アットホームといってもどういうアットホームがいいの?”、“友達はどんな人なの?”、“どういう人と一緒にいたら心地良いの?”。そこから始まって、“あなたの求めるアットホームはこう?”“そういうサロンを自分で探してみたら?”と問いかけていきます」
ーー深く掘っていくんですね。
西里「小人数だからできるというのもありますね。そうじゃないと、生徒たちは“先生が言ったから”と全て人のせいにするんですよ。自分で決めると、“自分で決めたでしょ、だったら頑張らないとね”という気持ちになる。自分が引き出した答えが離職を止める力になるんです」
サロンを良いものにするかどうかは、自分次第。
ーー「良いサロンの条件」を挙げるとすると、その生徒に合うサロンかどうかというお話になってくるんでしょうか。
西里「基本全てが良いサロンだと思っているので。逆に“悪いサロンって?”と聞きたいぐらいです」
ーー学校が見る“良いサロンの条件”なんてものは……。
西里「おこがましいですね」
ーー生徒さんが求めるサロン像は、傾向的に何かあったりしますか?
西里「美容学生だけじゃなく社会全般で、今の若い子はガツガツしてる子は少ないですね。それよりも自分の時間を持ちたいと。ただこれは仕事をしたら変わると思うんです。でも学生時代はそういう傾向にはあると思います」
ーー生徒さん同士でSNSを使って情報を交換したりといったことは、活発にされていますか?
西里「してますね」
ーーSNSで情報収集するのも当たり前?
西里「当たり前すぎて、そんなに真剣に見てないような気もします。流し見ですね」
ーー美容師になりたいという夢を抱いて入学される方も、消去法で入学される方もいらっしゃるというお話がありましたが、美容師の離職率の高さを知った上で入学されているんでしょうか。そこに対する意識はどういった形ですか。
西里「あまりないですね。多分そこまで見てないですね」
ーー見るべきだと思いますか?
西里「美容業界だけが離職率が高いわけではないような気もするんですよ。飲食業界なんてもっと高いんじゃないかと思いますし。他の業界もそうですよね。なので特に知っておくべきとは思わないんです。ただ、離職率が高いのは現状なので、知っておいた方がいいと思います。離職率を減らしていけたらいいなと思いますね」
ーー現状を知って減らす意識を持つことは、オーナーさんにも言えることですね。
西里「そうですね。転職はいいと思うので、中途枠の積極採用もあっていいと思います」
ーーやはり新卒の方が主流ですか。
西里「特に大手さんは、新卒採用に主流を置いてるサロンが多い気がします」
ーー中途だと、それこそその人のやり方が染みついていて、サロンのやり方と違う方法をされてしまったり。
西里「あるでしょうね。ただロゼ美はそこはすごく言うんですよ。“美容師歴が何年になっても、サロンに入ったらそこのやり方に準ずる。それが無理ならすぐ自分でサロンを開くべき”と」
ーーなるほど。
西里「先生でも、“前の学校ではこう教えてた”と言ってくる方も多いんですよ。前の学校の話を出すなら、なぜ辞めたのかという話になるじゃないですか。それなら学校作った方がいいですよという。どの業界でも幾つになってもそういう人はそうします。でもロゼ美の生徒にはそうじゃないよと2年間で生徒に結構言うので、卒業してから“先生そんなこと言うてたな”って頭の片隅で思い出してくれたら、意識も変わっていくのかなと。そうするとオーナーさんたちの中途採用時の負担も軽減するのかなと思うので、そういった就職前教育を徹底してやっていけたらなと思います」
ロゼ美の就職前教育を受けた生徒さんは、「自分で学ぶ力」を身につけているため、採用後もサロンにとって理想的なスタッフになってくれます。そのためには、サロンのうわべだけの雰囲気を伝えるのではなく、しっかりとリアルな現場の話を生徒さんに伝えることが大切だそう。生徒と実際の現場のイメージとギャップを埋めることが、何よりもキャリアを継続できると考えておられるのです。離職率に悩むオーナーさんは、ぜひ一度ロゼ美の学内ガイダンスに参加してみてはいかがでしょうか。
大阪府知事認可 職業訓練法人 美昇学園/大阪府知事指定 美容師養成施設
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