国家資格をとって美容師になっても、3年以内に約半数の人が離職してしまうという美容業界の現実。サロンプロモでも、たびたび採用ミスマッチや人材不足など、採用に悩むオーナーさんの声をお聞きしてきました。今回は、そんな美容業界の問題や教育を改善したいという想いで設立した、大阪・心斎橋の美容学校「ロゼ&ビューティー美容専門学院(以下、ロゼ美)」の学園長・鍜(かじ)貫一さんと、学院長・西里(にしざと)千亜紀さんにインタビューを敢行。
せっかく美容師になっても、現場でイメージとのギャップが起こることで離職につながってしまう。なぜそのギャップが生まれてしまうのか。その原因を解消し、離職率を下げるための学びを生徒の間に身につけてほしいと話すお二人。印象的だったのは「学び方を学ぶ」という言葉でした。それぞれ美容師・理容師として長年現場で活躍されたからこその新しい教育。第一回目は、お二人の教育への熱い想いを語っていただきました。また、実際に学校に通う現役の生徒さんにもお話を聞くことができました。他校とは一線を画したロゼ&ビューティー美容専門学院とは、どんな学校なのでしょうか。
今ある業界と美容学校との付き合い方を変えていきたい。
ロゼ&ビューティー美容専門学院は、今年設立7年目を迎える美容学校です。無駄を省いたカリキュラムで週に3~4日の授業を実現、学費が安く、少人数で学ぶことで美容師免許が取得できます。全生徒が授業でトータルビューティーとビジネスマナーを学び、即戦力となるための知識・礼儀・礼節を身に付けます。なお、ここでいう「無駄」とは、専門学校でもよくある文化祭、体育祭、一泊研修、卒業旅行のこと。これらを省くことで、少ない日数での授業や、安い学費の設定が可能になっています。また、美容サロンで働きながら免許取得を目指す通信コースも人気。既に通常の美容学校との違いが伺えます。学園長と学院長、お二人の熱い気持ちをどうぞ。
ーーこの学校はどんな想いで設立されたのでしょうか。
鍜「美容業界というのは、周りから見たらひとつの業界という感じがするんですけど、実は美容学校と美容業界の間にすごく距離があるんですね。私たちは離職率を下げるために、今ある業界と美容学校との付き合い方を変えていきたいと思っています。生徒さんが業界でより活躍できるように、一番始めに入ったサロンとのミスマッチを減らしたいからです」
西里「私たちが本校を設立した2014年頃と今では、求人の流れが全く変わっています。SNSが登場して、個人が発信し、繋がれるツールができたおかげで、学校だけが就職を担う構造ではなくなりました。新卒採用の入口が美容学校のみという仕組みに私たちは当初から違和感を抱いていたので、生徒主体の就職活動を目指していました。そこに時代がSNSという形で追いついてきた。この2~3年で劇的に改善されていると思います。学校とオーナーとさんとの付き合いも変わってきました」
ーー理想に近づいてきたんですね。
西里「ひとつはそうですね。ただ、まだまだです。あとは中身です。学校でできるオーナーさんとの関わり方や就職の生徒指導。他とは違う美容教育を目指しています」
ーーオーナーさんとの関わり方はどう変化してきましたか?
鍜「これまで美容学校とサロンの関係性は、サロン側が学校側にお願いして生徒を回してくださいというのが主流だったんです。学校の先生が“あの店良いよ”と言ってサロンを紹介していたけど、先生は学内でがっつり仕事をしてたら、業界のことがあまり見えないはずなんです。見えていない人が生徒にサロンを紹介して、そこに行けと言うのは、まあまあ変な話なんですよ」
ーーなるほど。
鍜「四年制大学の就職活動は、生徒さんが自ら自分に合う仕事や道を考えてしっかり選ぶ。自分で選ぶ責任感や決断力は、人生において絶対必要です。だから、そういう力をつけられる教育をしたいと思ったんです。実状、生徒が求人票で見るのは給与・休日・福利厚生の3つだけなんですよ。そしてどこに慰安旅行に行くか。どうしてもここに目がいく。これが実状なので生徒さんを本当に変えていきたい。生徒さんが「自分たちで」就職活動をきちんとやっていける環境を構築している途中です」
ーー生徒さんの意識を変える教育をされているんですね。
鍜「本来、美容業界で活躍する時の最優先は美容師になること。美容師になるためにどう努力するか、どんな美容師になりたいか、いつお店を出したいか、ゆくゆくはこういうことをやりたい、というのがモチベートになる。給与・休日・福利厚生がモチベートになると、どこかで“これだけ働いてるのに給料がもらえない。休みが少ない”となって、離職していく子がすごく多いんです。キツい言い方かもしれないけど、そういう子たちは美容業界に入らない方がいい。だって辞めるから。サロン側も求人費用を使って給料も払っているのに、半年働いて合わないから辞めますとなってしまう。このミスマッチもすごく大変です。ただ、僕も自分で店をやっていたからよくわかるんですけど、サロン側が“うち厳しいですよ”とは言わないと思うんです。“うち楽しいですよ。アットホームですよ。早く成長できるし技術も教えてあげますよ”とアピールする。だけど、どこか集客してる感じになってしまう。そこのズレが離職率に繋がるのかなと」
ーー良いところを見せて生徒さんに来てもらおうとするサロンさんが多いんですね。
鍜「それでなきゃ集まらないのもよく分かるんですよね。超大手だと、50人残すために100人ぐらい入れないとダメなので。でも大手さんもゴソッと入れてあとは辞めてもいいとは、本当に思ってないと思います。ただ毎年の離職率を考えたら、そこまで集めておかないと今年度に必要な人材が揃わないので」
変化しつつあるサロンの待遇や労働環境。
ーー働き方改革の波が美容業界にも流れていると思いますが、労働環境はどうなのでしょうか。
鍜「サロン側はこの10~20年でめちゃめちゃ変わりました。今でも社会保険に加入しているサロンは20~30%ぐらいだと思うんですけど、10~20年前の加入率は1~2%くらい。雇用保険がないお店も多かった。今はちゃんと保険も入ってるし、教育システムというパッケージがあるサロンも多いです。月給は前まで16万ほどでしたが、今は17~19万。20万を超えるところもある。中には、社会保険に加入していても入社時に“保険入らなくてもいいけど、どうする?”と聞いたり、高給でも教育費を天引きしたりと裏技を使うサロンもあるけど、今はだいぶ少なくなってきました」
ーー是正されてきたんですね。
鍜「僕らが現役の時は、半端ないぐらい時間外労働でした。でも僕らは練習したかった。練習しないと絶対上手くなれないから。今会社によってはアカデミーといって、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)でレッスンさせてくれるところもあります。当然働く環境はホワイトの方がいい。だけど、そのバランスは僕らも業界も解決できない、一番の問題点だと思います」
ーー技術の向上には練習時間が必要だけど、働き方の見直しも行われてきていると。
鍜「昔はネットもなかったし、資料を集めるのも大変だったけど、今は会社案内がホームページに載ってるし、リクルートページも作られてる。情報が開示されてるんだから、生徒さんは就職活動をちゃんとするべきです。それとサロン側がアメ玉を配って入社させる風潮が、もう少し変化していけばと思います」
ーー生徒さん自身の就職へのモチベーションにもバラつきがありそうですね。
鍜「生徒のやる気の高さを層で表すと、ひし形になってると思うんですよ。上層部の子は自力で頑張れるエキスパート。僕らよりも意識が高いし、どこの学校に行こうがそういう子はいます。あとは1番数が多い中間層の子が求めている美容の楽しさ、やりがい、自信、誇りとプライドを持って仕事をできることを、学校で伝えたいと思っています」
学校で覚えてきたことを忘れてもらうのが、サロンでの最初の仕事。
ーーロゼ美さんの授業の内容はどんなものですか。
鍜「意識してやっているのは、“就職前教育”です。離職率を減らすための教育。カリキュラムがどうのこうのというより、大事なのは、返事と挨拶ができること。時間を守ること。自分の態度や言動で周りに悪い影響を与えないこと。できれば周りに良い影響を与えるように、と言ってます。ただそれをやれば、静かなシンとした授業になってしまうので、学びたい子が学べる環境は作っています。うちは美容学校なので学問を突き止めるわけでもないけど、就職に向けて授業を行う位置づけとして考えています。ただ現状美容学校に来る子は、意識高く美容師になりたい子もいれば、美容師になりたいけど練習するのは面倒くさいという子もいる。あとは美容師じゃなくてトリマーでも良かったけど、家から近かったからという理由で来てる子も、働きたくないから学校に来てる子もいます」
ーーそのモチベーションの差を埋めるにはどうしたらいいのでしょう。
鍜「ルールと規律を守ることですね。エキスパートの子はルールと規律を守るんですよ。ルールと規律を守れない子たちが、悪い言い方としてはのさばってしまうと、本気で頑張ろうと思ってる子が学校を辞めていってしまう。それが美容業界最大の損失なんです。そして、“この子たちと一緒に勉強するのが嫌だ”という生徒を学校側が作っていることが一番の問題だと僕は思ってます。技術は卒業後にサロンで伸ばすしかない。美容学校ではいくら技術を教えても、入口の薄いところまでしかやらないので。ただし国家試験に100%合格するよう、ものすごく努力してます。僕は現場で感覚で学んできたことが沢山ある。そこにはすごく自負もある。だけど、美容師さんが100人いたら100人ともその感覚はバラバラなんですよね。だから、僕の感覚で“こうだよ”と教えてしまうと、現場に行ってズレるんですよ」
ーー先生の色に染めてしまうのは違うんですね。
鍜「基本的には国家試験に受かる勉強をして、返事と挨拶を学んで、卒業して会社に入ったら会社の方針に乗っ取ることを理解する。それができるのが生徒にとっては1番大事です。”僕、学校ではこう習ってきました”なんていうのが一番面倒くさいですよ。“僕、こんなことできます”って。できない方がいいです。あとはプロの美容師さんが教えてくれるから。シャンプーもサロンごとに考え方が違う。すっきり洗うサロン、ゆっくり長く丁寧に洗うサロンもあれば、短時間で綺麗に洗うサロン、いろいろある。それを“僕はこんなふうに仕事したい”と言ってきたら?大卒では絶対ないでしょ。でも美容業界ではよくあるんです。学校で覚えてきたことを忘れてもらうのが、最初の仕事なんですよ。在学中は自分たちで勉強したらいいけれども、サロンに入ればサロンのやり方に合わせることが絶対に大事だと伝えてます」
ーー就職前教育を受けた生徒さんは、考え方が変わったりされますか?
鍜「徹底してやろうとするので、面白くないと感じる子は面白くないと思います。授業中喋ったらダメ、挨拶しないとダメ、遅刻ダメ、好きなことをやらせてくれない。それはそれでうちを選んだのは自分だし。学び方を学べない子は就職しても問題点を探し出してしまいやすい。そんな子は業界の発展を止めます。でも学び方が学べる子は、就職してから成長が早いと思う。あとで“先生が言ってたことは本当でしたね”と言ってくれる。これは現場に行かないとわからないですよね。うちの学校を好きになってくれるよりも、美容業界に入って、人より早く覚えられたり、人より早く美容の楽しさを見つけてくれたらいい。うちでの経験を自分で血肉化させて、現場でどんどん伸びてくれるようになれば。そしてその子が偉くなった時に卒業校が“ロゼ&ビューティー”となっていたら、それでいいです(笑)」
経営者の気持ちを知るために、経営や経済の講義も導入。
ーー講師陣も現場を経験した方だそうですね。
鍜「国家試験に関する授業は、現場経験がなくてもいいと思っています。教え方にバラつきがないように、美容実習の本に準じて統一しています。国家試験課題以外の選択科目、まつげエクステや美容メイクに関しては、リアルやトレンドを勉強してもらうため、現場で働く人に授業をしてもらっています。ただ、この先生が教えることが業界の主流かと言うと、そうではないんですよ。“こういうやり方があるよ”という教え方です」
ーー経営や経済に関する講義もされているそうですね。
西里「もちろん大学生が習うレベルまではいかないけど、知らないよりは知っていた方がいいし、頭の片隅に置いておいた方がいいと思っています」
ーー将来サロンオーナーになって、経営する意識を持つためですか?
西里「それもありますが、まずは経営者の気持ちを理解するためです。経営とは何か、お給料をもらうためにはこれだけの売上が必要で、固定費はこのぐらい。そういうこともきちんと理解する。単に美容が好きだから、このお店がキラキラしてるから、楽だから入った。そうなると経営の考え方を全く知らないじゃないですか」
ーー生徒さんにとってはすごく良いですね。他の美容学校ではあまり教えてらっしゃらないですよね。
西里「あまりないみたいですね。最新を取り入れる意味でインスタの投稿の仕方を教えている学校は聞きますが、そういうのは多分生徒の方が知ってるんですよね。時代は一瞬で変わるので、私たちは普遍的な基礎を教えます。これがうちの就職前教育のひとつです」
ーー就職後に役に立つ知識や考え方に注力されているんですね。学校としてこれから掲げるビジョンはどんなものですか?
西里「まだ理想論だけで実現できてないので、具体化してきっちり運営したいですね。現場で活躍できる人材を最短で育てる学校にしたい。美容学校と美容業界の距離をもっと近くしたいです。“ロゼ美の卒業生はいいよね、長く続くよね”と言ってもらえる学校にしたいです」
ーー実際、ロゼ美を卒業されて美容師を続けてらっしゃる方は多いんですか?
西里「設立したばかりで、そこが私たちもまだまだ見えない。これから目指すところであり、課題です。オーナーさんや学校が生徒の上にいる時代ではなく、私たちも社会状況や時代を見ながら、生徒さんと同じ目線で一緒に歩んでいきたいと考えています」
ロゼ美には主体性を重んじ、頑張る人を応援する雰囲気がある。
そして、実際にロゼ美に通っている生徒(2年生の今井杏さん、1年生の大畑蒼空さん)に生の声を聞くことができました。お二人とも、まっすぐに夢を語る瞳が印象的でした。
ーーお二人がロゼ美を選んだ理由は?
今井「ロゼ美は授業が週3~4なのでアルバイトをしながら通えます。アルバイトとプライベートと学校の両立が全部できるところに魅力を感じて選びました」
大畑「アルバイトは学校で教えてもらえないことも吸収できると思うし、僕は学校の次に大事だと思っています。さらに無駄が省かれていて学費も安い。そういう意味でも授業日数と学費の兼ね合いが素晴らしいと思って選びました」
ーー授業内容はいかがですか?
今井「基本的には国家試験に向けての授業がほとんどです。プラスでトータルビューティーと選択授業でメイクやネイルを学びます。4時間目から7時間目までの実習の授業は、自分との戦いです。”今日は自分が何をしたいか、これを上手くなりたいからどういった練習をするか”。全て自分次第なので、自分で考えて過ごしています」
ーーそのやり方は戸惑った部分もありました?
今井「最初に細かいやり方を教わるので、それが身についた上で自分がどういうものを作っていきたいかを考えます。たまに先生にわからないことがあれば聞いたりします。本当に自分のやり方次第で技術力が変わるので、自分との向き合い方も技術を学ぶ上で学べますし、難しいことは難しいんですけど、成長につながると思っています」
ーー入学してよかったことは?
今井「授業が週3~4なので、嫌なことがあったら休みの間に遊びに行ってリフレッシュします。自分で考え方を変える十分な時間があるので、本当にそこは良かったなと思います」
ーー大畑さんは入学して4ヶ月ですが、学校生活はいかがですか。
大畑「僕は美容業界を目指そうと決めたのが自分でも驚くぐらい突然だったので、ある意味美容学生っぽくないと思うんです。だけどこの学校は少人数で、すごく落ち着いた雰囲気があって。大人数だと雰囲気に飲まれて萎縮してしまってたんじゃないかと考えることがたまにあるので、雰囲気的にもロゼ美に入って良かったと思います。あと、頑張る人を応援する雰囲気が強くて、主体性が大事だと感じます。僕たちの場合、国家試験に向けて頑張らないといけないんですけど、頑張ってない人は置いていかれるし、頑張っている人はその分力がついていくと感じていますね。先生方も頑張っている人には本当に寄り添ってくださいます。自分も寄り添っていただけるように頑張る姿を見せていかないとなと思っています」
ーーモチベーションはどうですか?
大畑「今は慣れないことや未経験のことしかないので、まだまだ下手くそなんですけど、最初に比べたらできるようになった部分も増えてきました。波はありますけど、何とかモチベーションは保っている感じですかね」
ーー今井さんは1年生の時はモチベーションはどうでしたか?
今井「最初なので何もわからないし、すぐ壁にぶち当たって落ち込むことや、練習のモチベーションが上がらない時もあったんですけど、“人生において2年間頑張ってみたら、手に入るものがあるかもしれない”と切り替えていました。与えられた時間は全員平等ですし、自分次第でどんな学校生活を過ごしたか変わっていきます。私は卒業後に“ロゼ美で学んでよかった”と自信を持って言えるようにしたかったので、目標をつけて頑張りました」
ーー今後の目標を教えてください。
今井「私は最終的にアメリカで美容師になりたいと思っています。それまでにビザを取って技術を伸ばさないといけないので、それに合った就職先をまず日本で選んでトレーニングをしたいと思っています。ロゼ美にいる間に十分な技術力と吸収力を学んで、気づいて、2年間で“成長した”と周りに胸を張って言える学校生活を送りたいです」
大畑「具体的な目標はまだ考えられていないんですけど、人物像としては、人との信頼関係を築ける思いやりと感謝の気持ちを持った人間になりたいです。技術はもちろん頑張らないといけないけど、技術だけが全てではないし、人間性は頑張っただけで身につくものではないと思うので、そういうところも意識して頑張っていきたいです」
ロゼ美の目指す「生徒の主体性」がしっかりと身についていることが、今井さんと大畑さんのインタビューからもよく伝わってきました。次回はロゼ美のリアルな就職事情や、オーナーとの付き合い方についてお話しをお聞きしました。
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